第30章 【ソレゾレノヨル】
「英二、具合はもう大丈夫なのか?」
夕飯の食卓を囲みながら、とーちゃんがそう問いかける。
うん、もう全然へーきだよん!そうニイッと笑ってプリプリエビフライを頬張る。
今夜は普段、仕事で家を空けがちなとーちゃんだけでなく、仕事や大学生活でそれぞれ忙しいにーちゃん達やねーちゃん達、みんなそろって食卓についている。
じーちゃんとばーちゃん、かーちゃんもあわせると、総勢9人の食卓は久しぶりで、その賑やかさと食卓いっぱいに並んだオレの好物に嬉しい反面、仕事や研究室で忙しいみんなや、一人暮らしまで始めているにーちゃんまで駆けつけてくれたことに申し訳なく思う。
ほんと、こうやって迷惑かけるから知られたくないのにさ……
オレが倒れると超過保護になるのはかーちゃん限らず、家族みんなにその傾向があって、みんな心配してくれて自分の予定を返上して駆けつけてくれるから、すげー嬉しいんだけどそれ以上に申し訳なくて、だから普段は出来るだけバレないように1人で乗り切っている。
今日は気を回した乾が連絡しちゃって、でも知らせないわけにいかないといった乾の言葉は友人として当然のことで、どうせ保健室でお世話になった段階で、事情を知っている学校から連絡がいくんだから、結果は変わらないわけで。
オレ、こんななのに、本当、周りに恵まれてるよな、そうそっと目を伏せる。
食事が終わるとかーちゃんが、不二と小宮山が買ってきてくれたロールケーキをだしてくれて、今日ね、女の子が来たのよ、なんて嬉しそうに話し、マジで?なんてみんながその話題に食いつく。
「小宮山さんって言ってね、最初は緊張していたみたいだけど、礼儀正しくて感じのよい子だったわよー」
英二の彼女?って盛り上がるみんなに、だから違うって、そう苦笑いしながら、いまだに消えない小宮山へのイライラを、必死にその作った笑顔の奥に隠して誤魔化した。