第29章 【フジノネガイ】
「小宮山さん、英二は自分で大切なことに気がついていないから、きっとこれからも君を傷付けてしまうかもしれない」
そう不二くんは私の目をまっすぐに見つめたまま、真剣な顔で話し続ける。
「それでもきっと小宮山さんといれば、英二はいつか大切なことに気がつくと思うんだ」
だから、これからも英二のそばにいて、英二を救ってやってほしい……そう続ける不二くんの言葉に、心臓がドクンと大きく脈を打つ。
真剣なその不二くんの目を見つめたまま、ギュッと胸をおさえて、それからそっと空を見上げる。
英二くんがよく見上げる空、その瞳の先の光景をいつか一緒に眺めてみたい、そう叶わぬ夢を願い続けてセフレという立場にしがみついている。
英二くんを救う……?
私が……?
傾きかけた黄昏の空に、銀色に輝く飛行機が白くまっすぐのびるラインを描いていく。
そっと目を閉じると、私に怒りをあらわにする英二くんの顔が目に浮かび胸が痛んだ。
それから、私に優しくしてくれる英二くんの笑顔と、頬を流れ落ちた一滴の涙、苦しそうな顔でうずくまった姿……
また少し涙がにじんで、そっと指で拭って立ち上がると、数歩進んですーっと大きく息を吸い込む。
「私は今まで通り、ずっとこれからも英二くんを想い続けるだけです」
風になびく髪を耳にかけながらくるりと振り返ると、ベンチに座る不二くんを見下ろしてそっと微笑む。
私の影と重なる不二くんは、一瞬目を見開いて、それから彼も穏やかな笑みを浮かべる。
「英二は幸せ者だね……こんなに小宮山さんに愛されて」
そんな風に言われるなんて思ってもいなくて、そうですか?そう目をパチクリさせて言うと、少しうらやましいよ、そう言って不二くんも立ち上がる。
そろそろ行こうか、家まで送るよ、そう笑顔で歩き始める不二くんに、不二くんを好きな人、凄く沢山いますよ?そう言って首を傾げると、彼はちょっと困ったように苦笑いをした。