第29章 【フジノネガイ】
「今日は本当にありがとうございました」
自宅前につくと、そう言って不二くんに頭を下げる。
ありがとう、その言葉の中には、英二くんを助けてくれたこととか、私を慰めてくれたこととか、私に英二くんを託してくれたこととか、自宅まで送ってくれたこととか、本当に沢山の感謝の思いを込めていた。
どういたしまして、そう言って微笑む不二くんの顔をじっと見ながら、お礼にお茶でもって言いそうになって、でも英二くんが家に来たときに、だいたーんって言われたことを思いだして、言っちゃダメだなってその言葉を飲み込んだ。
「小宮山さん、それで正解だよ?」
そうまたしても私の心を読んだかのように不二くんは言うから、え?って驚いて目を見開くと、今、一瞬、あがってお茶でも、なんて言おうとしたでしょ?そうフフッと笑う。
「これ以上小宮山さんと2人でいると、理性を保ち続ける自信がないからね」
そう言う不二くんのその言葉に、思わず目を泳がせたけど、ふふ、驚いた?なんて楽しそうに微笑むその様子に、不二くんはそう言う冗談多すぎますよ?そう言って苦笑いをする。
「そうそう小宮山さん、連絡先を交換してもらえるかな?」
そう苦笑いしている私に、ポケットから携帯を取り出しながら不二くんが笑いかける。
え?ってまた戸惑っていると、これからは生徒会で頻繁に連絡を取る必要も出てくるしね、そう言って不二くんは笑うから、ああ、そうかって納得して携帯を取り出す。
「もしまた英二に何かあったら、すぐに教えてもらえるし……」
それに僕達、もう友達なんだから当たり前だよね?そう言って優しく微笑む不二くんに、思わず目を見開いて、それからそっと笑い返す。
お互いに連絡先を交換すると、それじゃ、また明日、そう言って背を向ける不二くんに、はいと返事をしながら彼を見送る。
夕焼けに染まる不二くんの背中とその長い影に、本当にありがとう、そうもう一度小さい声でそっと呟いた。