第29章 【フジノネガイ】
「不二くんだって見たじゃないですか、私、英二くんにあんな風に怒られたんですよ?」
確かにあの屋上の一件以来、英二くんは変わったけど、凄く優しくしてくれたけど、それでもそれは彼の気分次第で……
なのにちょっと優しくされることが増えたからって、調子に乗ってついつい彼に近づきすぎて、あんな風に怒らせてしまった。
本当だったらあの屋上で、私、もう終わりにされるところだったのに、取り乱して、泣いて、わがまま言って、お情けで時々抱いてもらってるくらいの立場なのに。
他のセフレさんみたいに、割り切れればきっと英二くんの気持ちに添えるのに、そんなこと私に出来るはずもなくて、優秀なセフレであり続ける、なんて最初から無理なのに、それでもそうするしかなくて……
考えれば考えるほど、私の悪い癖なんだけど、どんどんネガティブ全開になってきて、どーんと気分が落ち込んでくる。
「うん、でも僕はそれも英二が君に心を開いているからだと思うんだ」
心を開いているから……?そう思いがけないその不二くんの見解に、目を見開いて彼の顔を見ると、うん、多分ね、そう彼は優しく微笑む。
「僕は英二のこと、大切な友人だと思っているから……大切な友人だからこそわかるんだけど、今日、英二の言ったことだって、あいつの本心じゃないはずなんだ……」
本当は小宮山さんのこと、ちゃんと理解しているはずだよ、今日は気持ちが不安定で暴走してしまったけどね、そう続ける不二くんに、そうでしょうか……?そう俯いてそっと聞き返す。
「うん、英二は限られた人にしか自分の本心をさらけ出したりしないからね、怒りも欲望も、そういった心の弱さをぶつけられる君は、英二にとってやっぱり特別な存在なんだよ」
本人に自覚はないようだけどね、そうちょっと困ったように笑う不二くんの言葉に、信じられない思いでギュッと胸を押さえた。