第29章 【フジノネガイ】
「それはね、英二にとって小宮山さんが特別な存在ってことだよ」
優しく微笑む不二くんがそんな有り得ないことを言い出したから、何を言われているのか理解できずキョトンとする。
「……逆ですよね?英二くんが私にとって……」
「ううん、英二にとって小宮山さんが、であってるよ」
思わず間違いかと確認してしまい、再度、はっきりと言った不二くんのその言葉の衝撃で、ええっ!?と大声を上げて、持っていたペットボトルを落としてしまう。
「そ、そんなこと、あり、ありえないハズないんじゃないですか!」
そう訳が分からない日本語で動揺しまくる私に、不二くんは穏やかに微笑みながら、足下に転がったペットボトルを拾いあげて手渡す。
不二くん、いったいなに言ってるの?そんなことあるはずないじゃない!
とにかく落ち着かなくちゃと深呼吸をすると、そんなこと有り得ません、そうもう一度不二くんを真っ直ぐ見て、彼の言葉をきっぱりと否定する。
「だって、私なんて単なるセフレの1人に過ぎないんですよ?」
絶対好きにならないって宣言されているし、そう自分で言って少し落ち込んで目を伏せると、でも、人の心に絶対なんてこと、あり得ないよね?そう不二くんはフフッと笑う。
それはそうですけど……そう目を泳がせると、キミだってもし自分をレイプした男をどうしようもないほど愛している女の子がいるなんて話を聞いたら、絶対あり得ないって思うよね?なんて痛いところをつかれて首をすくめる。
「僕はね、オトモダチ……つまりセフレの子と一緒にいる英二を何度か見かけたことがあるけど、小宮山さんと一緒にいるときの英二は全然雰囲気が違うと感じたよ」
雰囲気が全然違う……?
他のセフレさんといる英二くんといったら……そう公園での光景を思い出して何気に憂鬱になる。
だけどその光景で私のと違いなんて分かるはずもなくて、考えるだけ無駄!そうブンブンっと首を大きく振り、その光景を頭から追い出した。