第29章 【フジノネガイ】
「実は小宮山さんに謝らないといけないことがあるんだ」
片言の日本語で精一杯のお礼を言って俯いた私に、そう静かな声で不二くんが言うから、謝ること?って不思議に思って顔をあげると、彼は申し訳なさそうに私を見ていた。
さっき謝ってもらいましたよ?そう私が首を傾げて言うと、違うんだ、そう不二くんは目を伏せて首を横に振る。
「本当は小宮山さんを連れて行けば、英二が怒ることくらい、ちゃんとわかっていたんだ」
そうだよね、不二くんほど英二くんのことを理解している人が、私を強引に連れて行くなんておかしいと思った……内心、そんな風に思いながら、小さく相づちを打つ。
「わかっていて、それでも嫌がるキミを連れて行ったのは、どうしても確かめたいことがあったからなんだ」
そう視線をあげて私の顔を真っ直ぐ見る不二くんの瞳はとても真剣で、その力強い口調は彼の覚悟が現れていて、私も背筋を伸ばしてそれと向き合う覚悟を決める。
「そのせいでキミを傷つけてしまった……大切な友人、なんて調子のいいこと言っておきながら、本当に申し訳なく思うよ」
そう言って頭を下げる不二くんに、静かに首を横に振る。
不二くんがわかっていて強行するほど確かめたかった事なんだから、きっと英二くんにとって、とても重要なことなのだろうし、私が協力できるならそれでいいもの。
「それで、確かめることが出来たんですか……?」
「あぁ、おかげで僕の推測は確信に変わったよ」
一瞬、不二くんが見せたゾクッとするような笑みに戸惑いながらも、それは良かったです、そう言ってそっと微笑む。
思い当たることは何もないけれど、不二くんに協力できたことにホッと胸をなで下ろす。
「……それで、何を確信したんですか?」
多分、不二くんなら、聞いてはいけないことなら最初から言い出さないだろうし、大丈夫だよね……?
そう自分を納得させて問いかけると、彼はフッと優しい笑顔になって私に微笑みかけた。