第29章 【フジノネガイ】
「大丈夫、小宮山さんのせいじゃないよ」
突然、私の心の中を読んだかのようにそう不二くんが声をかけるから、ハッとして顔をあげる。
「悪いのは英二を苦しめているものであって、小宮山さんじゃないから」
顔に出てました?そう言って涙を拭いて苦笑いすると、うん、英二の事に関してはすぐ顔に出るね、なんて不二くんは笑うから、それは気をつけないとまた怒られちゃいますね、そう言って目を伏せる。
いつも自分の気持ちを心の中にしまい込んで学校生活を送ってきた。
自分の周りを見えない壁で取り囲み、決して心の中を見せないようにして、スイッチの切り替えを完璧にこなしてきた。
けれど、英二くんだけはその壁を難なく突破して、どんどん範囲を広げていって、いつの間にか私の心をいっぱいにして溢れさせて、完璧だったスイッチの性能はどんどん弱まっていった。
ダメ、このままじゃ、しっかりしなくちゃ……そう自分に言い聞かせ、すーっと大きく息を吸う。
「小宮山さん、英二はあんな風に言ったけど、僕は小宮山さんのこと、大切な友人だと思っているよ?」
英二や他の仲間達と同じようにね、そう突然言い出した不二くんに、え?って目を見開いて驚くと、彼の顔をじっと見つめる。
今、気持ちを切り替えようとしてたでしょ?そう不二くんは優しく微笑んで私を見るから、なんでも見透かされるその彼の目に戸惑って視線を泳がせる。
「小宮山さんは僕が友人じゃ不服?」
「そ、そんなこと、ありません……けど……」
不二くんはいつも私と英二くんの事を気にかけてくれて、私にいつも優しくしてくれて、不満なんてこと有り得なくて……
「だったら僕の前でくらい、自分を偽らないでほしいんだ」
そう言って優しく微笑む不二くんの気持ちが嬉しくて、でも私に友人が出来ることに戸惑って、色々な気持ちが混じり合ってスムーズに言葉が出てこない。
アリガトウゴザイマス……そう必死に絞り出した言葉でお礼を言うと、それから俯いてにじむ涙をそっと隠した。