第29章 【フジノネガイ】
「小宮山さん、君のことだから感づいていると思うけど、英二は心に深い傷を負っていてね……」
そう不二くんが徐に口を開き話し始めるから、はい、そう頷いて空を見上げる。
英二くんが心に何かを抱えているのは、だいぶ前から気がついていた。
時折、彼が見せる寂しげな目で空を見上げる仕草や、クラスメイトと私や不二くんの前で見せる二つの顔、必要以上の空元気、それから、セフレを多数抱えて、一生誰も好きにならないという恋愛観。
今思えば最初の出会いの時、私の心を一瞬で惹きつけたのも、そんな彼が見せるあの寂しげで辛そうな目だった。
絆創膏も、痛いの痛いの飛んでいけも、彼のそんな心の傷のサインなのかもしれない。
もしかしたら、私が気がつかなかっただけで、もっと沢山の心のサインがあったかもしれない。
そして私が思わずしてしまった痛いの痛いの飛んでいけの後の涙と、苦しそうにして倒れたの……あれって、詳しくはないけれど、多分、PTSD、心的外傷後ストレス障害。
「英二くん、今日みたいな事、よくあるんですか……?」
「僕にもよくわからない、英二は僕達にも多くは語らないから……実際に見たのは数回」
数回……少なくとも何度か繰り返しているんですね、そう言ってそっと胸を押さえる。
「病院には……?」
「ご家族によると、英二が大丈夫だと言って拒否しているらしい。僕達も勧めているんだけどね」
英二くん、カウンセリング、嫌がってるんだ……
英二くんがどうして苦しいのにそれを拒むのかはわからない、でも、私が彼の心の傷に触れてしまったから、英二くんを苦しめてしまったのだけは確かな事実。
私があんなことしなければ、彼が苦しむことはなかったのに……
そう思うとまた涙が溢れ、英二くんが貼ってくれた絆創膏の手を見つめながらギュッと握りしめた。