第29章 【フジノネガイ】
どのくらいの時間、そうしていたんだろう?
我慢しなくていいよ、自然に止まるまで待ってるから、そう言ってくれた通り、不二くんはずっと優しく髪をなでながら、黙って待っていてくれた。
人の温もりって暖かいんだな、そう英二くんとは何度身体を重ねても、感じることができなかった感情に戸惑いながらも、不二くんの優しさが心にしみて、また少し涙が零れた。
「不二くん、ありがとうございます、もう大丈夫です」
そう言って顔を上げると、優しく笑う不二くんと目があって、急に今の状況が恥ずかしくなって慌てて彼から離れる。
ごめんなさい、私ったら図々しく……そう赤くなる頬を感じながら謝ると、僕からしたんだし役得だよ、なんて不二くんは笑うから少し心が軽くなって私も笑った。
ベンチに移動して座ると、不二くんが近くの自販機で買った紅茶を差し出してくれたから、慌ててお財布を出すと、小宮山さんはもうちょっと人に甘えることを覚えた方がいいよ、なんて言われる。
でも図々しくないかな?なんて困っていると、僕がそうしたいと思ったんだからいいんだよ、したくないことは最初からしないから、そう言って優しく微笑むその笑顔にまた甘えさせてもらう。
今日は不二くんに甘えてばかりだな、なんて思いながらそっとその紅茶を一口、口に含むと、ペットボトルの紅茶なのに、いつもと違う柔らかい味がした気がして、ちょっと不思議に思った。
そうだ、そう慌てて鞄を開けると英二くんのDVDと不二くんのハンカチを入れた袋を取り出して、これ、ありがとうございました、そう言って不二くんに手渡す。
「英二、どうだった?」
そう言って微笑む不二くんに、DVDの英二くんを思い出して胸が熱くなる。
英二くん、凄く幸せそうでした、そう言ってギュッとスカートの裾を握りしめて俯くと、うん、そうだね、僕もそう思うよ、そう不二くんもそっと呟いた。