第29章 【フジノネガイ】
「あの、不二くん、私、こっちですので……」
公園の入り口までくると、そう立ち止まり不二くんに頭を下げる。
家まで送るよ、そう優しく微笑む不二くんに、泣きそうだから1人で帰ります、そう言って俯くと、だから1人にできないよ、そう不二くんは私の手を引いて歩き出した。
その繋がれた手に少し戸惑うも、私への怒りを露わにした英二くんを思い出し、押し寄せる恐怖と胸の痛みに耐えきれず、その手の温もりに少しだけ甘えさせてもらう。
「不二くん、私、ちゃんと笑えていましたか……?」
そう不二くんの背中に小さく問いかけると、大丈夫、少なくとも英二の家族には笑顔に見えていたはずだよ、そう言って不二くんは立ち止まる。
「少なくとも……?」
「僕には……多分、英二にも、小宮山さんの笑顔が泣き顔に見えて辛かったよ……」
そう聞き返した私に振り向いて答えた不二くんは、辛そうな顔で目を伏せながらそう呟いた。
「ごめんね、英二になにも言わせないなんて大口叩いたくせに、僕の考えが甘かったよ」
そう頭を下げる不二くんに、不二くんのせいじゃないですから、そう慌ててそれを否定して、英二くんの言う通り、私が自分でついて行ったんですから、そう言って無理に笑うととうとう涙がこぼれ落ちた。
「彼女泣いてる、別れ話?可哀想ー」
「見たら、悪いよ。ほら、行くよ!」
そんな私達を見た見知らぬ人達の話し声が聞こえ、不二くんに迷惑かけちゃう!そう慌てて涙を拭うと、そんな私を見た不二くんは繋がれた手をグッと引いて木陰に身を隠す。
「我慢しなくていいよ、自然に止まるまで待ってるから」
そう言ってそっと私を引き寄せる不二くんに、あ、あの、でも、そう慌てて戸惑うも、こうしてれば、誰にも涙は見えないから、そう言ってそっと後頭部を撫でてくれる不二くんの優しさに、我慢していた涙が次々と溢れ出す。
そっと不二くんの肩に顔をうずめて、彼のシャツの裾をギュッと握りしめた。