第28章 【ヒキガネ】
「そこで泣くかよ……」
そう呆れたように呟く英二くんの言葉に、慌てて涙を拭う。
大丈夫です、泣きません、ちゃんと笑えますから、そう言ってグッと両手で目尻をおさえて、必死に笑顔を作る。
だけどやっぱり笑えなくて、そんな私に英二くんはもう一度ため息を落とした。
「英二がそんな態度で、小宮山さんが笑えるはずないだろう」
だいたい、どうすれば彼女が笑えるのか、一番わかってるのは英二じゃないか、そう言って不二くんが深いため息をつくと、そんな彼をチラッと見た英二くんは、だったらキスでもする?そう言って歪んだ笑顔をみせる。
「なんなら抱いてやってもいいけどね、さすがにかーちゃんいるから出来ないし」
そう言って身を乗り出して私の後頭部へと手を伸ばす英二くんのその歪んだ笑顔と言動に、ズキンと心が痛んでまた涙が溢だす。
そんな私の涙を見た英二くんは、もう一度チッと舌打ちをすると、乗り出した身体を戻して横を向いた。
「小宮山さんを泣かせているのは英二じゃないか!」
そう厳しい顔で言う不二くんに、何?オレが悪いっての?そう英二くんは頬を膨らませると、コーコーセーにもなって、人んちに来てんのに愛想笑いの一つもできない方が悪いんじゃないの?そう私を見ながら鼻で笑う。
それから英二くんは俯いて目を伏せると、どうせオレが悪いんだよ、そう小さい声で呟くと深いため息をついたと思ったら、私に視線を戻し嘲笑う。
「第一、学校でもちーっとも笑わないでさ、友達1人もいないなんて、小宮山、どっかおかしいんじゃないの?」
そう嘲笑いながら呟いた英二くんの言葉は、私の心に鋭いナイフのように突き刺さる。
張り裂けそうに痛む胸を必死におさえて、震える身体を縮こめる。
その瞬間、英二!!そう不二くんが怒りを露わにして英二くんの胸ぐらにつかみかかるから、やめて下さい!そう慌てて不二くんを制止して、いいんです、本当のことだから、そう必死に首を振って笑顔を作った。