第28章 【ヒキガネ】
やっぱり来るんじゃなかった……
英二くんの口から冷たいため息があふれる度に、ビクッと私の身体は震え、胸が張り裂けそうな痛みを放つ。
俯いてギュッと瞳を閉じると、せめて泣くことだけは、と必死に涙をこらえる。
帰れよっ!そう背中を押された時の力は、強い口調と比べるとさほど強くはなかったのに、それが私に与えたダメージは相当なもので、その衝撃はいつまでも私の背中と心を痛めつけた。
そのせいで英二くんのお母さんがお茶を持ってきてくれたのに、泣くのをこらえて座るのが精一杯で、笑顔でお母さんと話しをする英二くんが、そんな私の態度にますます怒っているのはわかったけれど、だからと言って自分ではどうにもできなかった。
英二くんのお母さんが部屋からでると、居たたまれなくて、帰ります、そう言って立ち上がったら、バカなの?って、今出てったらおかしいじゃんって言われて、確かにその通りなんだけど、もう自分ではどうしたらいいかわからなくて、小さい声で謝ることしかできなかった。
「つうか、マジで、家族の前でそんな顔されんの困んだって」
もう一度ため息をつく英二くんに、またごめんなさいと謝ると、謝るくらいなら最初からくんなよ、そう言って英二くんが眉をひそめて横を向く。
あの屋上での一件以来、英二くんはずっと優しかったから、例えそれが気を使ってくれただけでもすごく優しかったから、こんな英二くんは久しぶりで、前よりずっと怖くて、それは心から怒っているのがあきらかで、膝の上でギュッとスカートの裾を握りしめた。
「英二!いい加減にするんだ!さっきも言ったけど、僕が小宮山さんに無理を言って連れてきたって言ってるだろう!」
「んなこと言ったって、結局着いてきたのは小宮山じゃん!拉致されてきた訳じゃあるまいしっ!」
そんな二人のやりとりを聞いていたら、とうとう堪えきれなくなった涙が、ポトリと頬を伝って膝の上で握りしめた拳を濡らした。