第28章 【ヒキガネ】
「英二、どうしたのー?」
この騒がしい状況を不思議に思ったのか、かーちゃんが怪訝そうな声で階段を登ってくる。
やべって思ってすーっと息を吸うと、あらあら、こんな所に立ちっぱなしで、英二、ちゃんと座ってもらいなさいよ、そう言って部屋を覗くかーちゃんに笑顔をむける。
「かーちゃん、小宮山さんも来たことちゃんと言ってくんないから、オレ、ビックリしたじゃん!」
思わず大声あげちゃったよ、そうペロッと舌を出すオレに、あら、言わなかった?なんて言いながらかーちゃんはお茶とプリンを3つと焼き菓子をテーブルに並べる。
「プリン、ちょうど不二くんと小宮山さんが買ってきてくれたのよ」
マジで?ナイスタイミングじゃん!そう言ってプリンを手に取ると、2人ともサンキュー、そうニイッと笑いそれを口に頬張る。
ほらほら、二人とも座って、お持たせだけど、そう言ってかーちゃんは二人を促し、はい、ありがとうございます、そう慌てて不二は笑顔を作ると、泣きそうな顔をしている小宮山をそっとかーちゃんから隠して座る。
「他にもロールケーキやいろいろもらったのよ、大家族だと申し訳ないわね」
「マジ?やったぁ♪これ公園んとこの店じゃん?オレ大好物~!」
かーちゃんの前なのに泣きそうな顔の小宮山にますますイラッとして、ちゃんとしろよ!そう思いながら、わざとはしゃいでみせる。
それじゃ、ゆっくりしていってね、そう言ってかーちゃんが笑顔で部屋を出ると、あぶねー、誤魔化せて良かった、そう胸をなで下ろし、それからふーっとため息をついた。
「あの、私、帰ります……」
かーちゃんが、出て行くと直ぐにそう立ち上がる小宮山に、バカなの?そう言ってもう一度ため息をつくと、小宮山はまたビクッと肩をふるわせる。
「今、帰ったらどう考えたっておかしいじゃん、かーちゃんに変に思われたらどうすんの?」
そう言って睨みつけると、小宮山はもう一度ごめんなさい、そう小さく謝ってまた腰を下ろした。