第28章 【ヒキガネ】
「英二ー、不二くんが来てくれたわよー!」
半ば強引に家の中に招き入れられると、そう階段の上に向かって英二くんのお母さんが声をかける。
ほいほーい、不二ー、上がって来てー!そう英二くんの元気そうな声が聞こえ、ホッと胸をなで下ろす。
「小宮山さん、行こうか」
そう私に声をかける不二くんに、もう一度、でも……そう目を泳がせるも、すぐにお茶入れるから、英二の部屋で待っててね、なんてお母さんに言われちゃうと、今更、帰るわけにもいかず、すーっと深呼吸して覚悟を決める。
コンコンと不二くんが階段を登った先のドアをノックし、英二、入るよ、そうにこやかに声をかけると、どーぞー、そう中から英二くんの声が聞こえ、なんて言われるか怖くて心臓がバクバクと激しく脈打った。
どうしよう、絶対怒られる……、ふーっとため息をついて、恐怖で震える心臓をギュッとおさえると、不二くんの後ろにそっと身を隠す。
「何?不二、部活までさぼったのー?ダメじゃん!」
ガチャっと不二くんがドアを開けると、そう言いながらベッドの中で携帯を操作している英二くんが見えた。
「ちょっと待ってねー、今、オトモダチと週末の約束しゃうからー♪」
携帯に視線をむけたままそうニヤリと笑う英二くんのその言葉に、まるで心臓が握り潰されたかと思うほどの痛みが走り、思わず不二くんの制服をギュッと握りしめる。
「英二!!」
そんな私を気遣って、そう不二くんが慌てて大きい声を上げると、その言葉に驚いてこちらを振り返った英二くんは、私の存在に気がつくとピクッと眉をひそめ顔を歪ませる。
その英二くんの歪んだ顔にますます胸が痛んで泣きそうになり、ごめんなさい、そう謝ると必死に涙をこらえた。