第28章 【ヒキガネ】
「あら!不二くん、来てくれたの?」
ガチャっと開かれたドアから出てきた女の人は、私達と目が合うと少し驚いた顔をして、それからそう言って笑顔を見せる。
この女の人ってもしかして……ううん、もしかしなくても……そう思っていると、その後、英二の様子はどうですか?お母さん、そう不二くんが笑顔でその女の人に挨拶をする。
ああ、やっぱり英二くんのお母さんなんだ、そう思って私も慌てて会釈をすると、そんな私を見たお母さんは、あら!女の子も一緒なんて初めて!英二の友達?そうちょっと驚いた様子で問いかける。
まさか「英二くんのセフレです」なんて本当のことは言えないし、だからと言ってただのクラスメイトの女子がお見舞いにくるっておかしくないかな……?
英二くんのお母さんが家にいるのは予想していたし、家に行くとなるとちゃんと挨拶をしないといけないのは覚悟していたのに、いざその場面になるとやっぱり焦ってしまう。
「いつも菊丸くんにはお世話になってます。同じクラスの小宮山璃音と申します」
なんとかそんな風に精一杯の挨拶をすると、赤くなる頬でもう一度頭を下げて、それからぎこちない笑顔を作った。
そんな私に英二くんのお母さんはにこやかな笑顔を見せて、英二、だいぶ良くなったから勝手に入ってて、今からプリン買いに行くから、そう言って門から外に出ようとする。
「あ、あの、プリンならここに……」
そう不二くんと顔を見合わせて手土産の箱を前に差し出すと、あら!2人ともナイスタイミングね~♪英二が食べたがってるのわかってたみたい!なんてお母さんはますますにこやかに笑い、入って入って!そう私の背中に手を添えて中に招き入れる。
「あ、いえ、私はこちらで失礼しますので……」
「何言ってるのよ!ここまで来て、ほらほら、早くっ!」
そう強引に家の中に連れ込まれながら、ああ、英二くんのお母さんだ、そう思わず苦笑いをした。