第28章 【ヒキガネ】
「みっともないから付け替えるわよ?」
そう言うかーちゃんに、あー……って苦笑いすると、それから、んー……ってちょっと考えて、別にそのままでいーよ、そう言ってその手から学ランをひょいっと取り上げる。
その歪んだボタンを眺めながら、何度も指に針を刺して必死に頑張る小宮山の後ろ姿を思い出し、普段、何でも淡々とこなすその姿とは全然違う、オレの前でだけ見せる素顔に思わず頬が緩む。
「これでも頑張ってつけたんだからさ……」
そう言ってそのままクローゼットへ学ランをしまい、その扉をパタンと閉じてニイッと笑うと、それじゃお母さんが笑われるのよ、なんてかーちゃんがブツブツ文句を言う。
大丈夫だって、誰も笑わないよん、そう言ってまた笑顔をむけると、そう?って呆れたようにかーちゃんはため息をついた。
気分が良くなったら小宮山へのイライラも消えたようで、心配してるだろうし、明日ちゃんと謝ってお礼も言わなきゃな、なんてこっそり思う。
それから、不二に泣きついたみたいだから、そのことで余計にいじめられなきゃいいんだけどな、そうそっと胸を痛める。
ま、そん時は不二が何とかするだろうけどさ、そう言うのはオレよりずっと得意だし。
そうひとりで考え込んでいるオレに、かーちゃんが、そういえば何か食べたいものある?って今度は聞くから、プリン!そう即答して笑うと、じゃあ買ってくるから寝てなさいね、そう言ってかーちゃんは部屋を後にする。
やったっ、プリンっ♪そうはしゃぎながらベッドに潜り込むと、ドアを閉めようとするかーちゃんが、あ、英二、そう何か思いついたように立ち止まって振り返る。
「1人で大丈夫?留守番できる?」
「……かーちゃん、オレ、もう高2だよ?」
流石に心配しすぎっ!いったいオレ、何歳だと思われてんのさ?そう言って苦笑いした。