第28章 【ヒキガネ】
「大丈夫?ひとりで部屋に行ける?」
自宅に着くとそう心配そうにオレに手をかそうとするかーちゃんに、大丈夫だって、もうだいぶ落ち着いたしさ、そう言って笑顔を見せる。
自室に戻りベッドに横になり大五郎を抱きしめると、オレを見送る乾の顔を思い出し、きっとずいぶん前から小宮山とのこと、知ってたんだろうな、そう思って苦笑いをする。
それから追い払ったときの小宮山の泣き顔が頭をよぎり、ふーっとため息を落とす。
何度、酷いことをしても、突き放しても、それでもオレを嫌いにならずに、赤い顔して笑顔をむける小宮山は、時々オレを無性にイライラさせる。
何も悪いことしてないくせに、いつもオレの顔色をうかがって、そんで怯えて謝って、何もしてないなら謝んなきゃいーじゃん!ちゃんと言いたいこと言えばいーじゃん!って、すげー腹が立つ。
でも、それは小宮山が悪い訳じゃないのはわかってんのに、オレがそんな態度をとらせているのもわかってんのに、そんでもそんな小宮山の態度は、忘れたくても忘れられない過去を思い出させ、そして目の前に突きつけるから、自分の気持ちをコントロールできなくなる。
気持ちを受け入れてやれないなら、それでもいいって小宮山自身が思うなら、せめて優しくしてやろうって思ってんのに、ときどき顔も見たくないほどイライラしたりして、結局こうやって泣かせてしまう。
小宮山のこと、ほんと、嫌いじゃないし、見た目はわりと好きな方だし、決して身体だけを気に入ってるわけじゃないんだけど……
一緒にいて楽しいって思うときもちゃんとあるし、無理に自分を作る必要もないから楽なんだけど……
ふーっとため息をついて、ポケットから携帯をとりだすと昼休みにとった小宮山の笑顔の写真を眺める。
その笑顔は本当に楽しそうで、それからオレも楽しくて、でもその数十分後にはこんなことになっちゃって、ほんと、オレって何なんだよ、そう自分を嘲笑うとまた胸が痛み出す。
大五郎を抱きしめてそのお腹に顔をうずめると、また次々と涙が溢れた。