第26章 【イタイノトンデイケ】
痛いの痛いの飛んでいけ、そう言ってオレの頬に手を添えた小宮山に、思わずキスをした途端、忘れたい記憶が涙となって溢れ出す。
苦しい 怖い 辛い 痛い 悲しい……
胸がドクンと大きく脈を打ち、息苦しさとともに、そんな感覚が一気に押し寄せる。
そんな自分を見られたくなくて、慌てて小宮山を追い払うと、やだって、くんなよ!そう必死にそれに抵抗ながら、その場にうずくまる。
ふるえる拳でつい握りしめたのは小宮山がさっき付けた胸のボタン。
そっと手を開いてみると、やっぱすんげー歪んでいて、ほんと、へったくそ、そう呟きながら苦笑いをする。
そらから思い出すのは、追い払ったときの小宮山の泣き顔。
また泣かせちゃったじゃん……ま、オレが泣かせたくない、なんて思うこと自体、矛盾してんだけどさ。
いくら小宮山がこの関係を続けることを望んだからって、それがあいつの本心なんかじゃないのはわかってんのに、結局オレは小宮山の気持ちを利用して自分の欲求を満たしてるだけで……
セフレとして大切にするってなんだよソレ、割り切ってないやつセフレにしといて、大切にするもなんもないっての。
ほんと、いつだってオレは矛盾だらけなんだって、小宮山に対しても、家族に対しても、それから……あの女に対しても。
そう自分を嘲笑いながら、もう一度、ボタンを握りしめる拳に力を込める。
やべー……苦しいの、まだ治まんねーじゃん、学校じゃ、大五郎もいないしなぁ……
大五郎は効果覿面だけど、いつも持ち歩くわけにはいかないし、タバコはもう二度と吸わないってとーちゃんと約束しちゃったし……そもそも、学校じゃタバコ吸えないし……
なんか、気休めになるもの、見つけときゃよかった……いつ襲ってくるか分からない苦しみに、振り回される生活に嫌気がさす。
テニスしてた頃は、こんなことなかったんだけどな……
そっと目を開けると目に留まる紙袋。
震える手を必死に伸ばすも、どうしてもそれに届かず、ダメか、そう思って諦めると、視界が霞みはじめた。