第26章 【イタイノトンデイケ】
寂しげな笑顔、こぼれ落ちた涙、払われた手、荒げた声……何度も頭の中で繰り返す。
彼に怒られて慌てて走り出したけど、やっぱり気になって、後ろ髪を引かれる思いで立ち止まっては、何度も振り返って英二くんに視線を向ける。
そんな彼の横顔はやっぱり凄く小さくて、それから凄く儚くて、そして息苦しそうに身体を丸め、そのまま茂みの陰に隠れて見えなくなった。
胸がドクンと大きく震え、それからザワザワと胸騒ぎが広がっていく。
一瞬、戻りそうになるも、早く行けって!そう声を荒げた英二くんの涙を思い出し、払われた手で胸をおさえ、その衝動を必死に堪える。
それから私も涙を拭い、キッと前を向いて全速力で走りだす。
校舎まで最短距離で駆け抜けて、昇降口で慌てて靴を履き替えて、つまづきそうになりながら階段を駆け上り、生徒達にぶつかっては、すみません、急いでいます、そう謝りながら廊下を走り抜ける。
みんなが驚き振り返る中、やっと辿り着いたある教室に、私は躊躇することなく飛び込んだ。
「不二くん、いますか!?」
英二くんに拒否された私は彼のもとには戻れない。
だったら出来ることはただ一つ、拒否されない人に助けを求めるだけ。
授業が始まる直前の教室は、ほぼ全員の生徒が揃っていて、残り僅かな休憩時間を友人たちと楽しそうに談笑しながら過ごしている。
そんな中、突然血相を変えて飛び込んできた部外者の私にクラス全員の視線が注がれて、教室内は水を打ったように静まり返る。
突き刺さるような視線を感じ、ヒソヒソという話し声が聞こえてきたけれど、そんなことを気にしている余裕なんて全くなくて、必死に教室内を見回すと、このクラスにいるはずの不二くんの姿を探した。