第26章 【イタイノトンデイケ】
「小宮山、コレのこと気にしてんだろ?」
ふと英二くんがそう言うから、え?って慌てて顔を上げると、彼は自分の右頬の絆創膏を指さして、コレはただのキャラ作りだよん♪そう私にウインクをする。
キャラ作り?って首を傾げると、だってこの方がかわいい菊丸英二くんを演出できんじゃん?そう言ってニカッと笑うから、本当に?ってそっと覗きこむと、もち!って英二くんは笑顔を見せる。
でもその笑顔はやっぱり私には寂しそうに見えて、思わず英二くんの絆創膏に手を伸ばすと、痛いの痛いの飛んでいけ、そうその頬を撫でながらそっと小さく呟いた。
すると一瞬英二くんは目を見開いて、それから顔を近づけてくるから、キス?と思っていつものようにそっと瞳を閉じる。
彼の唇が確かに触れたのを感じて、ゆっくり離れていくと同時に目を開けると、その目に飛び込んできた光景に、今度は私が目を見開いた。
そこで私の目に映ったものは、英二くんの頬を流れ落ちる一粒の涙だった____
キーン コーン カーン コーン
それと同時に午後の授業の予鈴が鳴り響き、英二くんはグッと握り拳で涙を拭う。
それから、小宮山、時間だからもう行けって、そう俯いたままポツリと呟く。
でも……って英二くんの涙が気になって、その場を離れられないでいると、ギュッと胸をおさえだした彼が、早く行けって!そう私の手を払い声を荒げる。
ズキンと心臓が張り裂けそうに痛み、涙が溢れ出す。
慌てて鞄を手にとると、急いで校舎へ向かって走り出す。
どうして……?
いったい急にどうしちゃったの……?
初めて見た英二くんの涙に動揺を抑えきれず、震える足を止めて立ち止まると身体をギュッと抱きしめる。
こっそり振り返って見た彼の後ろ姿は、とても小さく、とても儚く、そして、とても苦しそうに見えた。