第26章 【イタイノトンデイケ】
痛っ!!
ただでさえ苦手な裁縫なのに、英二くんの前で、しかも彼のボタンだと思うと尚更緊張してしまい、さっきから何度も指に針を刺しては、その都度それを口に含む。
出来るだけ丁寧につけようと頑張ったところで、突然、裁縫が上手になるはずもなくて、やっぱり普通の人がパパッと付けてしまうボタンでも、私にかかればかなりの時間がかかってしまう。
しかもやっとのことで出来上がって見てみると、縫い付けたボタンは斜めに曲がっていて、生地も歪んで寄ってしまっている挙げ句、微妙にボタンホールとの位置がズレているという、何とも無惨な出来だった。
やっぱりダメ、こんなの恥ずかしくて見せられない!!
慌てて付けたばかりのボタンにハサミを入れようとすると、おっ、出来たー?そう言って覗き込んだ英二くんによって、ひょいっと学ランを奪われてしまう。
「あっ、英二くん!ダ、ダメ!!」
慌てる私にかまわず、英二くんはサッと学ランに袖を通すと、上から順にボタンを留めて、私の付けたボタンに差し掛かったところで手を止めると、それから、あー……っと苦笑いをする。
「だから私には出来ないって言ったんです!」
そう言ってまた顔を両手で覆ってブンブンと横に振ると、大丈夫だって、コレで、と英二くんは私の髪をよしよしと撫でた。
それから私の後頭部を引き寄せてキスしてくれたと思ったら、次の瞬間感じたのは、私の口の中に固い何かが転がりこんだ感覚と、それと同時に広がる甘酸っぱい味。
これって、飴……!?
それに今のってもしかして、もしかしなくても口移し!?
「菊丸印の魔法のキャンディーだよん♪機嫌直った?」
そう英二くんはウインクすると、口を押さえて真っ赤になる私の顔をのぞき込む。
そんな彼の様子に思わずふふっと頬を緩ませると、やっぱ効果覿面~♪そう言って英二くんもニイッと笑う。
それから英二くんは学ランのポケットからいつも頬に貼っている絆創膏のテープを取り出すと、ほい、手、いっぱい刺してたじゃん?そう言って私に左手を差し出した。