第26章 【イタイノトンデイケ】
はぁ……イヤな予感がしたんだよね。
幸せの余韻に浸っていると自分が何か握っているのに気がついて、ふと目の前を見たら英二くんの胸のボタンが無くなっていて、いやな予感がしてそっと手を開いてみたら、やっぱり私が握っていたのはさっきまでそこについていたボタンで……
すぐに言おうと思ったのに、もし付けてって言われたらどうしようって思って、なかなか英二くんに言えないでいるうちに、どったの?って声掛けられて……
慌ててそれを返してさっさとその場を離れてしまおうと思ったら、結局、付けてって言われちゃって、しかも私が裁縫苦手なのバレちゃっているみたいで、なんだかんだと言い訳しても、全部英二くんにかわされちゃって……
覚悟を決めて、付けれないって言っているのに、イジワルスイッチ入っちゃった英二くんにそれが通じるはずもなくて、せめて付けているところは見ないで下さいねって言って彼に背を向けると、ソーイングセットから針と糸を取り出した。
「本当に、学ランが可哀相なことになりますよ?」
「大丈夫だって、オレの学ランなんて既にボロボロだし」
「だいたい、今、夏服なんだから学ランいらないじゃないですか……」
「あると便利なの!ポケット多いし、小宮山、しょっちゅう下に敷いてんじゃん?」
そうだけど!英二くん、私の制服が汚れそうなときは学ランを下に敷いてくれるから、確かにすごくお世話になっているのだけれど!
はぁ……なんで私、ソーイングセットなんて持ち歩いているんだろう?
このシチュエーションって普通、持っていることを喜ぶ場面なんじゃないの?
何か学校で困った事があっても友人がいない私は誰にも頼れなくて、そのため、万が一に備え色々自分で持ってきていて、そのせいでこんなことになっちゃって……
普通の女の子ならしない後悔をしている自分がおかしくて、そんな自分に心の中で苦笑いをした。