第26章 【イタイノトンデイケ】
「んー……小宮山、ちょい待ち!」
この慌てようは何かあると思って、もしかして?って思いついちゃって、もしそうだったらすんげー面白いなーなんて思って、慌てて逃げていく小宮山を呼び止める。
するともう一度ビクッと身体をふるわせて立ち止まった小宮山は、恐る恐るオレの方に振り返るから、責任とってちゃんとボタンつけて?ってニヤリと笑って言ってみると、あぁぁ……と頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「ソ、ソーイングセットがありませんので……」
「さっきウエットティッシュ出してくれたポーチの中にちゃんと入ってたよん?」
「じ、時間がありませんので……」
「じゅうぶん間に合うじゃん?ボタンくらいパパッとつけれるって!」
なんだかんだと理由を付けてそれを拒否する小宮山は、まさにああ言えばこう言う状態で、なかなかうんと言わないその様子がおかしくて、無理強いしないっていったって、こんくらい別にいいよな?って自分を納得させる。
「……パパッと、つけれない人がここにいるんですー……」
全然ひかないオレにとうとう観念した小宮山は、そう恥ずかしそうに両手で顔を覆って首を振るから、ほーんと、わかりやすいよなってまた笑った。
うんうん、誰でも苦手なことってあるよねー、そう小宮山の肩をポンポンと叩いて頷くと、じゃあ!って顔を上げて目を輝かせるから、でも許してなんかやんないもんね、そう言ってベェーッと舌を出す。
一瞬で希望が絶望に変わった表情を楽しみながら、ほんじゃ、よろしくー、そう小宮山の手をギュッと握ってボタンを手渡すと、学ランを脱いでニイッと笑いそれを差し出す。
そんなオレの様子を恨めしそうに見上げた小宮山は、渋々オレの手から学ランを受け取ると、首を横に振ってふーっと深いため息をついた。