第25章 【ランチタイム】
「「キャーーー、菊丸先輩ーーー!!」」
そんな黄色い歓声に、ほいほーい♪、そう笑顔で手を振りながら一年生の廊下を進む。
桃のクラスはー、あ、ここ、ここーって思いながら、桃いるー?そう言ってひょいっと顔を覗かせる。
ちょっと、菊丸先輩だよって教室中から上がる女の子たちの声に、そだよー、菊丸先輩だよー♪そうブイサインしながらウインクすると、本物ー!とまた歓声が上がる。
「ふへっ、英二先輩!?」
そう窓際の席でうまそうに弁当を頬張る桃を見つけ、桃ーっと両手をひろげて跳びつくと、ギュッと後ろから抱きついて、弁当、いっこ、ちょーだい♪そう両手を前に出す。
「……突然、なにいってんすか?」
そうオレをおんぶ状態で不満げな声を上げる桃に、だーかーらー、弁当、いっこ……そう言いかけたところで、無理っす!と桃は手で大きくバツを作る。
「いくら英二先輩の頼みでも、弁当はあげられないっすよ!」
「むー、何でだよー!どうせ4個も5個も持って来てんだろ?いっこくらいいーじゃん!」
そう、頬膨らませるオレに、もうみんな食っちゃったんすよ!と桃は苦笑いする。
何だとー、だったらそのプリプリエビフライをっ……そう言って、ちょうど今食べている弁当に手を伸ばすと、だー、ダメって言ってるじゃないっすかー、そう言って桃はペッペッ!と弁当に唾を飛ばす。
「うわっ!なんてことすんだよっ!それでもオレの舎弟かー!?」
「俺はいつから英二先輩の舎弟になったんすかー!」
中一からだっつーの!そう言って桃の首を羽交い締めにすると、英二先輩、ギブ!ギブっす!と桃はオレの腕を叩いた。
そんな2人を遠くから物珍しそうに眺めていた桃のクラスメイト達の中から、そっとひとりの女子が近づいてきて、あ、あのっとオレに声をかける。
「き、菊丸先輩、私のお弁当で良かったら食べて下さいっ!」
へ?って思って桃を羽交い締めしたまま彼女の顔を見たオレは、あっ!って思わず声を上げる。
そこで真っ赤な顔で弁当を差し出していたのは、あん時、体育館裏でオレが振ったあの女子だった。