第24章 【ネコトイヌ】
「小宮山さん、良かったら、コレ使って?」
ハンカチで拭いただけの濡れた髪のまま、昇降口で靴をはきかえていると、そうクラスメイトの市川さんがタオルを差し出してくれる。
そんな彼女の心遣いに、どうして市川さんが?って戸惑って、全く接点がない彼女からタオルを借りるのも悪いなって思って、でも不二くんのハンカチと同じように断らない方がいいのかな?って悩んだ。
そんな風にモタモタしているうちに、朝練を終えて戻ってきた沢山の生徒達や、普通に登校して来た生徒達にジロジロ見られていまい、内心その状況に凄く焦ってしまう。
何?あの2人仲良いの?なんてコソコソ話す声も聞こえて、ダメ、私と関わったら市川さんも何か言われちゃうかもしれないって思ったら、思わず、私に関わらないで下さい、なんて冷たい言い方をしてしまった。
あっ、って思って恐る恐る市川さんの顔を見ると彼女はちょっと悲しそうな笑顔になったから、ズキンと心が痛んで慌てて俯くと、失礼します、そう言って彼女に背をむける。
本当はあんな風に言いたい訳じゃないのに、どうしてああしか言えないんだろう、そう内心ため息をつきながら、更衣室へと向かって歩き出す。
更衣室で着替えを済ませ教室に戻ると、関わらないでと言ったときの、市川さんの悲しそうな笑顔をもう一度思い出して、そっとため息を落とす。
せっかくタオルを貸してくれようとしたのに、そんな彼女の優しさを素直に受け入れることが出来ない自分に嫌気がさす一方で、彼女と関わらなくて済んだことにホッと胸をなで下ろす自分もいた。
カバンから本を取り出していつものようにそれに視線を落とすと、ちょうど着替えを終えた市川さんが教室に戻ってきて私の机の前で立ち止まる。
彼女が何か言い掛けたのはわかったけれど、それに気がつかない振りをして、黙々と本を読み続けた。