第24章 【ネコトイヌ】
そう言えば不二くんにハンカチとDVD返さないと……そう思ってはっと顔を上げて、手元の本からバッグに視線を移す。
忘れていたわけじゃないけれど、市川さんがタオルを貸してくれようとしたことで、改めて思い出したんだけど……
毎日持って来てはいたのだけれど、なかなか返すタイミングが掴めなくて、教室や部活に堂々と返しに行く勇気もなくて、結局、月曜日も火曜日も不二くんに返すことが出来なかった。
いつでも良いって言われたって、そう言うわけにもいかないよね……なんとかして今日は返さないと、そうバッグの中のハンカチとDVDを入れた袋を見ながら、よしっ!とこっそり心に誓う。
それから返すと言えば、英二くんに返しそびれていたネコ丸のタオル。
こっちは返そうと思えば返すタイミングはいくらでもあったんだけど、行為の後ってなんだかんだとバタバタして、いまだに返せないでいる。
これもいい加減ちゃんと返さないと、そう改めて思ってチラッと英二くんをみると、彼は相変わらず楽しそうにみんなと話をしていた。
そんな彼の笑顔はもちろん格好良いんだけど、テニスをしている時の彼の笑顔にはぜんぜんかなわなくて、それから普段は絶対見せてくれない真剣な顔や、嬉しそうな顔や、苦しそうな顔や、悔しそうな顔、色々な英二くんの顔を思い出してしまい、爆発するんじゃないかと思うほど心臓が大騒ぎし出す。
テニスをする英二くんを知っちゃってから、以前よりますます彼を好きになっていくのを感じて、私、どのくらい彼のことを好きになったら満足するんだろう?なんてわかりもしない疑問に頭を悩ませる。
英二くん、今度はいつ私を呼び出してくれるかな……?そっとポケットから携帯を取り出すと、着信のない画面にため息をつく。
英二くん次第のこの恋は「待て」と「お預け」の連続で、「よし」って言われれば尻尾を振って大喜びする自分が、まるですっかり飼い慣らされたワンちゃんみたい。
私達、まさにネコとイヌって感じだね、そう思ってこっそり苦笑いをした。