第24章 【ネコトイヌ】
「……んっ……ハァ……」
英二くん、金曜日の帰りは私と目も合わせてくれなかったくせに、なに?今日は突然のこの展開……そう思うと甘い吐息にため息が混じる。
本当、英二くんはまるでネコ。
優しくしてくれたと思ったら、とつぜん無視したりする癖に、またこうやって悪びれずに甘えてきたりする。
そんな彼の気分次第で先の読めない行動は、いつも私を巻き込んでは振り回す。
その途端、おはよーっ、朝練ヤダねー?なんて声が遠くから近づいてきたから、英二くん、人がきましたよ?ってその肩をとんとんっと叩いたけれど、彼はそんな私の合図にはおろか、まるで近づいてくる生徒たちの存在までも気にしないように、そのままセーラーの中の手を引こうとしない。
英二くん、絶対気がついている癖に!!
最近、英二くん、こう言うのにハマってるの!?
そうバクバクする心臓で必死に訴えると、あ、もう空いてるよーっと倉庫の重い扉がゆっくりと開きだした。
その瞬間、ニヤリと笑う英二くんと目があったと思ったら、彼はパッと手を引き抜いて私の顔の横にポンと突いて、それからピョンと身軽な動きで飛び跳ねると、奥の方に一瞬で身を隠す。
「……小宮山さん、何してるの?」
「ちょっと……転倒してしまいまして」
一人取り残された私は慌ててその場に座り込むと、彼女たちに背を向けて急いで胸のリボンを結びなおす。
そんな私に彼女達が怪訝な顔で問いかけるから、どうぞ気にしないで下さい、そう言ってさっと立ち上がり、出来るだけ冷静を装って振り返る。
ふーん、大丈夫?そう言う彼女達に、問題ありません、そう答えてスカートの埃を払うと、フーッとため息を突いて英二くんが隠れた先をコッソリ睨む。
それからジャージに着替えるために更衣室へ向かおうとしたその瞬間、携帯にメールが届いたから急いで確認すると、その内容に頬を赤らめる。
『朝練終わったらここで待ってるよん♪』
本当にネコなんだから……そう内心苦笑いでため息をつくと、小さく頷いてから倉庫を後にした。