第23章 【エイジトテニス】
「小宮山、お疲れ~!」
そう私の前を素通りした英二くんを思い出し、ぎゅっと胸が痛くなる。
机に突っ伏しため息をつくと、ケースを指で支えて立てた英二くんのDVDを眺める。
不二くんに借りてすぐは帰ったら真っ先に見たいと思っていたのに、昇降口で英二くんとすれ違ったあの出来事のせいで、夜になった今でもまだそれを見れずにいた。
私、これを見ちゃったら、英二くんのこと、もっと好きになる自信がある。
私のことを絶対好きになってくれない英二くんをこれ以上好きになって、どんどん好きになっちゃって、ますます後戻りが出来なくなってしまっても本当にいいのかな……
そっと手に取った進路希望調査のプリント、もう提出期限なのに、いまだに白紙のままの紙。
身体を起こしてDVDからペンに持ち替える。
紙にペンをトントンっと数回当てたところで首を横に振り、手を離してペンを転がす。
将来の夢とか未来の自分とか、絶対コレになりたいってものがある訳じゃなかったけれど、それでも私なりに夢を持って努力してきた。
お父さんのように海外に出て視野を広げ、文学に触れて生きていきたい、そして大好きな本に囲まれて一生を送りたい。
そんな私の夢を両親も応援してくれて、高校を卒業したらお父さんの元へお母さんと一緒に移住する予定になっていて、前の進路調査ではここぞとばかりに決めたイギリスの大学を、第三希望まで迷わず書いた。
だけど未来がない英二くんとの関係に、今だけあればいいと心に決めたあの日から、自分の未来までも夢見ることが出来なくなってしまった。
海外に出てしまえば当分、もしかしたら一生日本に戻らないかもしれなくて、高等部卒業までのあと1年半しか英二くんの側にいられなくて、でもこのまま大学部に進学すれば、もう4年はこの関係を引き延ばせる可能性があるわけで。
でもそんなのは私が勝手に考えていることで、肝心の英二くんはあの通りの気まぐれで、高等部の残り半分どころか、このまま関係が終わってしまう可能性だって全くないわけではなくて。