第23章 【エイジトテニス】
こんな不安定な関係に自分の将来を左右させる訳にはいかないってことくらい、ちゃんと頭では分かっているのに、それでも彼への募る想いが邪魔をして、私に冷静な判断をさせずにいる。
視野を広げるどころか、極狭一点集中になっているよ……
考えても考えても、やっぱりどうしたらいいかわからなくて、もう一度大きなため息を落とすと、くるっといすを回転させて立ち上がる。
パソコンデスクに移動してその電源を入れると、すーっと大きく息を吸い、高鳴る胸を落ち着かせながら操作する。
パソコンが立ち上がる間にキッチンでアイスティーを入れて戻ると、部屋の明かりを落としディスクをセットする。
考えたって今すぐ答えなんか出るはず無いし、今は自分の気持ちに素直になろう。
どうせ、もう英二くんを好きすぎるのは変わらないわけだし、もっと好きになったところで状況は一緒だもの、そんなふうに開き直ると、アイスティーを口に含んだ。
コピーしながら再生すると直ぐに、笑顔の英二くんがアップで映し出され、ドキンと大きく心臓が跳ねて思わず後ろにのけぞると、胸を押さえて、反則!そうフーッとため息をついて視線を戻す。
『乾ー、オレ、カッコ良くうつってるー?』
そう画面の向こうでニイッと笑う英二くんに、うつってます、なんて思わず赤い顔で返事をしちゃって、私、何やってんだろ?って苦笑いする。
乾くん、テニスのデータDVDなのに編集で何故ここカットしなかったんだろう?
遊び心?私としては嬉しいけれど。
それから場面が変わり始まったテニスの試合に、息を飲んで視線が釘付けになる。
何これ……テニスってこんなんだっけ……?
画面の中の英二くんはコート内を所狭しと跳ね回っていて、こんなテニスの試合なんて見たことなくて、次の動きが読めないそのテニスは相手選手を見事に翻弄していた。
まるでネコのようなそのプレイに、私は時がたつのも忘れて魅入ってしまい、せっかく入れたアイスティーの氷はすっかり溶けて薄くなっていた。