第23章 【エイジトテニス】
「不二せんぱーい!俺と練習試合、お願いしますよ~……て、あれ?」
そう勢いよく開けられたドアから入っていた後輩の子に驚いて我に返る。
やっぱり練習の邪魔しちゃいましたね、そう言って驚いている後輩の子に会釈をすると、それでは失礼します、と頭を下げて部室を後にする。
不二くん、さっきのはなんだったんだろ?
ハンカチを借りて、思わずそのきれいな顔に見惚れていたら、不二くんの手が私の頬に触れて……まあ、私の涙を拭いてくれたんだけれど、そこまでして貰わなくても大丈夫なのに。
私、不二くんの前で泣いてばかりいるから、心配してくれているのかな……そんな風に思いながら教室へと向かう。
それにしても英二くんの写真は本当に素敵な笑顔で、写真ですらあんなに素敵なんだから、動画で見たらきっと比べものにならないくらいかっこいいんだろうな。
そう想像するだけでキュンと胸が高鳴りだし、早くみたいな、そう思って自然と足取りが軽くなる。
教室へたどり着くとよりによって小林くん達が残っていて、慌てて英二くんのDVDと不二くんのハンカチをカバンにしまうと、これからデート?なんて相変わらずそんなことを言う彼らを無視して、急いで教室を後にする。
早く席替えしないかな?体育祭が終わったら期末で、その後は夏休みだからもう少しの我慢よね、そうため息をつきながら昇降口で靴をはきかえていると、ちょうど外から戻ってきた英二くんと一緒になる。
倉庫でのこと謝っても大丈夫かな……?なんて迷いながら、あの……ってそっと声をかけると、小宮山さんお疲れー、そう英二くんはスッと私の横を通り過ぎる。
誰もいないというのに、私が決死の想いでかけた声をあっさり無かったことにする彼に、ズキンと痛む胸をおさえながらそっと振り返る。
そうだよね……私から話しかけちゃ駄目だもんね……
小林くん、私、デートどころか視線すらあわせて貰えないんだよ?そう小さくなる英二くんの背中にそっとため息をついた。