第23章 【エイジトテニス】
「あーあ、桃のやつ、可哀想ー!」
立ち上がり窓を開けて頬杖をつきながら中をのぞき見ると、最初、英二が止めに入ったのかと思ったよ、そう言って不二は笑顔を見せた。
「はは、止める理由がないっての!」
「あんなに優しくキスしてあげていたのに?」
そう物置でのことを言う不二に、本日の営業は終了いたしましたー、そう片方の手の平を上に向けて苦笑いをする。
「小宮山、結構、イイカオすんじゃん?」
そうオレが不二の顔を見てニヤリと笑うと、こちらを振り向いた不二は、小宮山の涙に触れた指をそっと口に含みながら、英二の気持ちがほんの少しだけ分かった気がするよ、そう言ってゾクッとするような笑みを浮かべた。
「だったらさっさとキスの一つくらいしちゃえばいーじゃん!小宮山、舌入れてやれば速攻落ちるよん?」
そう言うオレに、英二と同じゲスに成り下がるのはごめんだよ、そう言って不二はフフッと笑った。
オレは自分の欲求に正直なだけなの!そう言ってよっと窓枠を飛び越えて部室に入り込むと、これが小宮山が見ていた写真ね、そういやオレも持ってたっけな、なんて思いながらそれを眺める。
中3の時のその写真は全国大会優勝の喜びに満ちあふれていて、すげー幸せそうな笑顔で大石に抱きつきながら、喜びを全身で表現しているオレが写っていた。
あん時はこんな日が来るなんて、全く想像もしてなかったな……なんて思いながら写真の中の無邪気な自分から目を伏せた。
「んなロッカー、さっさと片づけろって言ったじゃん」
そう言って脚を投げ出してベンチに座り、その分、荒井辺りに使わせてやれば?そう呟くと、ダメだよ、あれは英二のロッカーだからね、そう不二が強い口調で言い切る。
だからオレ、テニス部じゃないっての、そう思いながら、んなの不二の自己満足、ただのお節介ー、そう言って乾いた笑みを浮かべると、みんなの思いだよ、そう言って不二はオレの隣に立った。