第23章 【エイジトテニス】
「返すのはいつでもいいよ」
コピーしても構わないよ?そうにこやかな笑顔で差し出すDVDを不二くんから受け取ると、ありがとうございます、すぐに返します、そう言って頭を下げる。
お言葉に甘えてコピーさせてもらおうかな……なんて考えながら部室を出ようと歩き出すと、出口までむかう途中でふとある事に気がついて思わず足を止める。
それは【菊丸】と名前の入った大きなロッカー。
もうすぐ2年生の夏休みだというのに、未だに入部していない英二くんのロッカーがあるなんて……
部員の中には小さな木のロッカーで我慢している人もいそうなのに……
英二くん、ずっとテニス部の一員なんですね……思わずそうロッカーの名前を見ながら口にした私に、もちろんだよ、と不二くんは答える。
「英二はたとえ入部届は出していなくても、僕たちのかけがえのない、大切な仲間だからね」
そうとても静かだけど力強く言い切る不二くんの言葉は私の胸を熱くする。
テニス部のみんなはずっと英二くんと一緒にテニスをしているんだ……そう思うと英二くんの名字が涙でにじんで、私の頬を伝い流れ落ちた。
そんな私にそっと不二くんがハンカチを差し出してくれたから、どうしようか戸惑うも、やっぱり申し訳なくて受け取れないでいると、受け取ってくれるかな?これで断られたらカッコ悪いから、そう不二くんが優しく微笑む。
そうなのかな?って思って、ありがとうございます、そう素直にハンカチを受け取ると、良かったって不二くんが笑うから、そんな彼の笑顔につられて思わず私も頬がゆるんだ。
ふと不二くんの目が見開いてジッと私を見るから、やっぱり物置で助けて貰ったときも思ったけれど、本当にキレイな顔って魅入ってしまうと、すっと不二くんの手が私の頬に触れて、キレイな指がそっと瞳の涙を拭う。
不二くん?そう彼の行動を不思議に思ったその瞬間、部室のドアが勢いよく開かれたから、はっとして2人でそちらの方を振りむいた。