第22章 【カベノムコウ】
「オレ、先に行って適当に言い訳してっからさ、小宮山、ゆっくり来れば?」
そんな私と不二くんの会話を、やっぱり不二くんと同じように苦笑いをして聞いていた英二くんが、私達にそう声をかける。
時間ギリギリだから走らないと間に合わないのに、この脚だと急げそうにもないし……仕方がないよね、そう思って、ごめんなさい、よろしくお願いしますと笑顔を見せる。
「不二くんももう行って下さい、これから部活ですよね、こんなことで呼び出してしまって、本当にすみませんでした」
もうこんなこと無いように気をつけますから……そう言って不二くんにも頭を下げると、だから小宮山さんが謝ることないよ、そう言って不二くんは優しく笑いかけてくれる。
「……英二の尻拭いはもう二度とゴメンだけどね」
そう続ける不二くんの笑顔にもう一度首をすくめた英二くんは、んじゃお先にーっと逃げるように会議室へと走り出した。
あっという間に小さくなったその背中をそっと見送りながら、すうっと息を吸い込んで気持ちを切り替える。
するとクスッと言う不二くんの笑い声が聞こえ、思わずそちらに視線を向けると、顔つきが変わったね、そう言って彼がまた笑うから、そうですか?自分ではよく分かりませんが……と首を傾げる。
ちょうどむこうから生徒達の楽しげな笑い声が近づいてきて、慌てて距離をとり「不二くんとは無関係」を装ってその生徒達をやり過ごす。
それからまた誰もいなくなったことを確認すると、それでは失礼します、そうもう一度お礼を言って、今度は転ばないようにゆっくりと会議室へむかって歩き出した。