第115章 【ミライへ・・・】
『まぁ、璃音がいいなら別にいいけどね・・・あ、じゃあ、それそろ、また後でね!』
「はい、それでは後で・・・」
美沙との通話を終わらせると、ゆっくりと手元の本に視線を戻す。
【闇に咲く菊】
閉じられた表紙のタイトルをそっと撫でる・・・
お母さーん!
・・・遠くからの呼び声に顔を上げる。
ポスンと胸の中に飛び込んできた柔らかい温もり。
お父さんとテニス、楽しかった?そう問いかけると、うん!と笑顔で頷く私そっくりの黒髪をゆっくりと撫でる。
「お母さん、それ、お母さんの新しいご本?」
「そうよ、個人的に書いたものだから、本屋さんには並ばないけどね。」
「ヒカリも出てくる!?」
「ん、ちょっとだけね。」
「読みたい!読んで!!」
「だーめ、これは、お父さんとお母さんの2人だけの秘密だから・・・ソラにもヒカリにも読ませてあげられないの。」
唇に人差し指を当てて、内緒、そう言ってふふっと笑うと、ぷうーっと膨らませた愛娘の頬をぺにょっと両手で挟む。
「これはお父さんとお母さんの物語・・・ヒカリは大きくなったら、ヒカリの大切な人とヒカリだけの物語を綴ってね。」
「じゃあ、お父さんとの物語だよにゃー?ヒカリ、お父さん大好きだもんにゃー?」
ヒカリから少し遅れて戻ってきた英二くんがヒカリを抱き上げ、頬にチューをする。
うん、お父さん大好き!そう言って、ヒカリが英二くんを抱きしめ返す。
「でも、一番大好きなのはソラー!!」
サッと英二くんの腕の中を抜け出したヒカリが、本を読んでいたソラをギューッと抱きしめる。
そんなヒカリの様子に、なんでだよぅーと英二くんが情けない声を上げて肩を落とす。
そんな英二くんの様子が可愛くて、ふふっと頬を緩ませた。