第114章 【アノヒノヤクソク】
「ごめんなさいね、お待たせしてしまって。お父さん、すぐ帰ってくるって言うけど・・・時間、大丈夫?」
「は、はい、今日は全然・・・って、違う、すみません、突然押し掛けてしまって・・・」
オレの突然の訪問に、すげー驚いていた璃音のかーちゃんだったけど、すぐにリビングに通してくれて、仕事に行っている璃音のとーちゃんに連絡してくれた。
考えたら当たり前だよな・・・
今はおもいっきり平日の昼間で、普通のサラリーマンなら会社に行っている時間に決まっていて・・・
自分の都合と勢いだけで来ちゃったけど、こういう事はきちんと前もって日時を決めてこないといけないのは常識で、ましてやオレは高校生の璃音に妊娠させて放っておいた訳だし、ただでさえ印象悪いのがますます最悪でしかなくて・・・
どーしよ、璃音のとーちゃんに殴られたら・・・
いや、それくらい覚悟の上だけど、オレ、一応アイドルだから顔はやめて貰おう・・・
腹・・・も、上半身は脱ぐことあるから痣が残るのはまずいし・・・残るは尻か・・・
なんて、緊張のあまりくだんないことを真剣に考えてしまう。
いや、オレにとっては決してくだらなくはないんだけど・・・
「英二くん、コーヒー淹れましたけど、ブラックで大丈夫ですか?」
「・・・へ?、あ、うん・・・」
せっかく璃音が淹れてくれたコーヒーなのに、カップを持つ手は震えるし、何とか口に含んでみても全然喉を通らなくて・・・
あの、美味しくないですか?、なんて璃音を不安にさせる始末・・・
にゃあ〜
とんっと、ソファの隣りに飛び乗ってきた感触・・・
ネコ丸・・・、懐かしいその鼻先に差し出したオレの手の匂いを嗅ぐと、グリグリと頬を擦り寄せてくれる・・・
「・・・ネコ丸、久しぶり・・・オレのこと覚えていてくれたんだな・・・?」
そんなネコ丸を撫でるとやっと気持ちが落ち着いてくる。
膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしながら寝息を立て始めたネコ丸の様子に、自然と頬が緩んだ。