第113章 【オトウサン】
ハッキリと言えず、ブツブツと呟いた私の思いに、何だよそれ!そう英二くんが声を荒らげる。
「そんなの関係ないっ!オレがアイドルになったのは璃音に今のオレを見ていて欲しかったからだから!璃音と一緒にいられないなら、アイドルなんか今すぐ辞めるっ!」
・・・ああ、もうダメだ・・・
英二くんにここまで言われて、それでも突き放すほどの強い意志を保てるものがない・・・
ソラが賛成してくれるなら、英二くんの仕事のことも気にしなくていいのなら、拒む理由はもうないじゃない・・・?
「・・・ソラ、ありがと・・・」
ギューッとソラの身体を抱きしめた。
そのまま、ゆっくりと英二くんの胸に寄り添った。
ずっと、ずっと、ひとりで頑張ってきたけれど・・・
これからは、英二くんとふたりで支えあっていいんだよね・・・?
「・・・ソラ、ちょっとゴメン・・・」
英二くんがソラに謝るから、不思議に思って顔を上げると、英二くんは手のひらでソラに目隠しをしている。
英二くん・・・?、そう首を傾げる私と目が合うと、シーっともう一方の人差し指を唇に当てた。
ゆっくりと近づいてくる英二くんの顔・・・
え?でもソラが・・・そう慌てて視線を泳がせる。
いくら目隠ししてるからって、こんな目の前で・・・
でも、英二くんのキスを拒むことなんか出来なくて、動けないでいる私の唇にゆっくりと英二くんのそれが重なり合う。
英二くん、大好き・・・ううん、愛してる・・・
あの踏切で確かめあった気持ちは、何年経っても何も変わらない・・・
触れるだけで直ぐに離れた唇・・・
あ、あの・・・、そう口をパクつかせて「もう1回」を強請る。
離れた英二くんの口角がニヤリと上がる。
ほら、私なんていつだって英二くんの思う壷・・・
分かっていて何度も繰返す「もう1回」・・・
唇が重なる度に英二くんの気持ちが私の中に流れ込んでくるようで・・・
それは、ふたりの離れた時間を埋めるのに、十分すぎるキスだった。