第113章 【オトウサン】
「この子は・・・その・・・そう!、聖母マリアのように、天使のお告げで突然身篭った・・・」
その瞬間、涙目で私を見ていた英二くんがパチパチと大きく瞬きをした。
あ・・・これは、やっちゃった、自分でもそう思った。
案の定、英二くんは肩を震わせて、璃音、それは無理あるだろ〜って大笑いしだして・・・
どうせ、私の口なんて、こうやって咄嗟の時は全く役立たずで・・・
自分でも分かってますよ、また変なこと言ったって・・・
英二くんだけじゃなく、ソラまでとっても呆れた目で私を見ている。
「・・・お母さん、排卵と受精があって、着床したら妊娠するんだよ・・・?」
「うん、そうね・・・お母さんだって分かってるわよ・・・」
だいたい、なんで5歳児がそんなこと知ってるのよ・・・
まぁ、好きな本買っていいよって言ったら、家庭の医学を選ぶような子だからね・・・
そのうち、本格的な医学書とか読み出すかもしれないわね・・・
「お母さん、この人が僕のお父さんなんでしょ?」
そのソラの質問に、ぐらりと視線を揺らした。
なんて返事をしたらいいか分からず、何か言わなきゃ、そう思うんだけど、声なんか出なくて、唇が少し動くだけで・・・
英二くんの前で認めるわけにはいかないのに、ソラの真っ直ぐな視線に目を逸らせなくなる。
これは、嘘で誤魔化しちゃいけない質問だ。
お母さんはいつだって私と対等に向き合ってくれた。
小さい時から、私をひとりの人間として、一人前に扱ってくれた。
ソラが真実を求めている以上、私もソラに正直でありたい・・・
すーっと、大きく息を吸った。
「・・・そうよ、この人があなたのお父さん・・・菊丸、英二くん・・・」
ソラの目を真っ直ぐに見つめて、しっかりと言葉にした。
ふーん・・・、そう素っ気なく返事をしたソラに、それだけ!?、なんて肩を落とした。
私としては、かなり勇気がいるカミングアウトだったんですけど?