第112章 【ソラ】
「すみません、ちょっと目を離した隙に・・・絆創膏まで貼っていただいて・・・」
「あ、いいえ・・・転ぶ前に気がついてあげれば良かったんですけど・・・」
女の子を探しに来たお母さんが話しかけてくれるから、こちらも歩み寄り、なんとか笑顔を作る。
うー、やっぱり、こういうの苦手・・・
でも流石に昔のように、「いえ、別に・・・」で終わらせられないもんね・・・
「あら・・・初めて見る方よね!?」
「あ、はい、最近引っ越してきまして・・・小宮山です、よろしくお願いします。」
「よろしくねー、こっちには旦那さんの転勤?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
本当は父の転勤だけど、なんて心の中で思いながら適当に話を合わせていく。
ろくに話せもしないくせに、話を合わせるなんて尚更簡単に出来る訳じゃないけど・・・
母親ってこんなにコミュニケーション能力が必要だとは思わなかった、なんて、子供を産むまでは考えもしなかった現実を思い知らされる。
「この辺はとっても住みやすいわよー、なんでも揃ってるし・・・あ、でもお肉買うならスーパーよりあそこの精肉店がいいわよ?、色々おまけしてくれるから!
それから小児科だったら駅前の新しい先生より、三丁目の昔からあるところの方が子供の扱い上手よ!」
でも、お世話好き(話好き?)な方らしく、私が何も言わなくても、色々教えてくれて、知っている情報も知らないことも話してくれて、それから、あ、またあんなところに!なんて待ちきれなくてウロウロし始めた娘ちゃんを追いかけて慌ただしく去っていく。
はぁ・・・有難いけどちょっと疲れたな・・・
活発なお子さんは大変だなー、なんて思いながら、ぎこちなく作った笑顔の両頬を擦りながら振り返る。
「ごめんね?、ソラ、待たせちゃ・・・って・・・?」
もとのベンチには家庭の医学を読んでいるはずのソラの姿はなくて、上着だけがポツンと置かれていて、肝心の本人はどこにも全く居なくて・・・
サーっと一気に顔から血の気が引いて行った。