第112章 【ソラ】
「・・・ふぇぇ・・・ママー!!!」
物思いにふけっているところで突然泣き声が聞こえて、ハッとして顔を上げる。
いつの間に来たのか、小さな女の子が転んでしまったようで、お母さんに助けを求めている。
辺りを見回してその子のお母さんを探すけれど、それらしいお母さんはいなくて、慌ててその子の元に歩み寄った。
「大丈夫?痛いところない?」
その子を抱き起こして服の埃を払い落とすと、膝を少し擦りむいてしまったようで、それに気がついた女の子が「痛いー!!!」とさらに大声で泣いてしまう。
「大丈夫だよ、おまじないしてあげるね?」
不安そうに泣き続ける女の子を抱っこして、私が座っていたベンチに座らせる。
バッグから消毒液と絆創膏を取り出すと、「痛いの痛いの飛んで行けー」そう貼り付けながらおまじないの呪文を唱える。
英二くん・・・
当然のように思い出す英二くんとの思い出・・・
今日はずっと英二くんが私の心の中で自己主張してきて、懐かしさと切なさで胸がいっぱいになる。
「おねーちゃんもどこか痛いの?いたいのいたいのとんでいけー!」
さっきまで泣いていた女の子が私の頭を撫でながらおまじないしてくれたから、ありがとう、もう痛くないよ、そう言ってこぼれた涙を拭って笑った。
とっても優しい子・・・
きっとお母さん、今頃心配しているよね・・・
「ソラ、ちょっとこの子のママを探しに行こう?」
「・・・お母さん、一人で行って来ていいよ。」
いやいや、そういう訳にいかないでしょ・・・
海外よりはずっと治安がいい日本でも、今は何があるか分からないし・・・
そもそも、なに?この優しい女の子との温度差・・・、私の育てかたが悪いの?、なんて、必要以上に他人に興味を示さない我が子が心配になる。
「___ちゃん!」
ママ!、探しに来たお母さんの声に、その子の顔がパァーっと明るくなる。
駆け寄る女の子を迎えたお母さんが、私にぺこりと頭を下げたから、私も慌てて会釈し返す。