第112章 【ソラ】
思いっきり、ソラをギューッと抱きしめる。
何?、そう迷惑そうにソラが家庭の医学から私に視線を向ける。
「お母さん、ソラが大好き!」
「うん、知ってるけど?」
・・・それだけー?、もっとこう、僕もー!とかなんとかないの?、そうもう既に家庭の医学に視線をもどし、目を輝かせて眺めているソラにガクリと肩を落とした。
本当にこの子は、誰に似たのか妙にドライなところがあって・・・
私だってもう少し、家族の中では楽しく過ごしていたはずなんだけど・・・
5歳のうちからこんなにドライなら、思春期になる頃には全く相手にされなくなるんじゃないの・・・?、なんて、まだ遠い将来のことを考えると寂しくなってしまう。
だけど、ソラ・・・
こうやって母親に当たり前に愛情を向けてもらえるのが、当たり前じゃない場合もあるんだよ・・・?
あなたのお父さんは、それで凄く辛い子供時代を送ったんだよ・・・?
・・・なんて、ソラから父親を奪った私が、偉そうなこと言えないんだけど・・・
あの時、英二くんにソラを妊娠したことを打ち明けていたら、ただでさえ私を傷つけたことを後悔している彼を、さらに追い詰めてしまったはずで・・・
だけどきっと英二くんなら、ちゃんと真剣に考えてくれたに違いなくて・・・
そして、英二くんはきっと学校を辞めてしまった。
私とソラのために、頑張って働くよん!って、自分の人生を犠牲にして・・・
そんなこと、させる訳にはいかなかった。
自分に絶望して、暗い闇の底でずっともがき苦しんでいた英二くんが、やっと前に向かって歩き出せたのに、それを邪魔するなんて・・・
私たちに縛られて欲しくなかった。
英二くんには、英二くんの好きなように生きて欲しかった。
だから、一晩考えて、お母さんに産みたいってお願いしたとき、それじゃ英二くんに連絡しないとね、そう言ったその言葉に、全力で抵抗した。