第112章 【ソラ】
「・・・お母さん・・・」
トイレから出た私の顔を見たお母さんは、全てを理解したように、そう・・・とだけ頷いた。
手の中には所要時間を待つ必要すらなかった、使用済みの検査薬・・・
一瞬で、判定の小窓に陽性を表す線が現れた。
心の準備する暇もなく、呆然とその線を眺めるしか出来なくて・・・
「・・・璃音、何も考えられないかもしれないけれど、ぼーっとしている時間はないわよ?」
「え・・・?、あ、うん・・・」
「明日、病院にいってちゃんと診察してもらって・・・」
「病院・・・」
病院で診察・・・そうか・・・そうだよね・・・
それから・・・
それから・・・
「・・・それで、お父さんはどっちなの?」
「え・・・?」
「お腹の子のお父さんよ、分からないの?」
「あ、ううん・・・英二くん・・・」
あのとき・・・学校で、私が英二くんを怒らせたとき・・・
最初は分からなかったけど、あとから英二くんが避妊をしなかったことに気がついた。
周くんに連れていかれたテニス部の部室のシャワー室で、コポリと溢れて足を汚した液体を洗い流しながら、私のだけじゃないって・・・
あの時の・・・、そっとお腹に手を添える。
「本当ね?、あとから『間違いました』じゃ済まされないのよ?」
「うん・・・周くんとは、そういうの、一度もない・・・英二くんとだけ・・・」
周くんからは、逃げてしまったから・・・
だから、確実に英二くんなんだけど・・・
「そう・・・だったら、すぐに英二くんに連絡しないと・・・」
そのお母さんの言葉にハッとして顔を上げる。
ふたりの責任でしょ?、そう真剣な顔で話すお母さんの意見は最もなんだけど・・・
その通りなんだけど・・・
「・・・お母さん、明日まで考えさせて・・・まだ混乱して・・・ちゃんと考えたい・・・」
その私の言葉に、そうね・・・、そう言ってお母さんが私を抱きしめる。
ごめんなさい、そう謝る私に、いいのよって優しく頭を撫でてくれる。