第112章 【ソラ】
家庭の医学・・・これをもち帰るとなると、重すぎて私の本はあまり買えないかな・・・
これはより厳選しないと・・・、そう気合を入れて新刊コーナーの平積みの本を眺める。
それにしても・・・、やっぱり不思議な気分だな・・・
こんな素晴らしい先生方と同じように、私が書いたものが本屋さんに積まれているなんて・・・
【今、話題のベストセラー、〇〇賞受賞!麻倉マコトの最新作】
可愛いポップで目立つように置かれているそれは、私が書いた何冊目かの本。
名前は英二くんに見つからないようにペンネームだけど。
まだ高校に通っていたころ・・・
鳴海さんを放っとけなかった英二くんに振られて辛すぎて、なにか打ち込めるものを・・・と、試しに小説を書いて応募した。
そんなこともすっかり忘れた頃、突然、受賞を知らせる連絡があった。
まさか、自分が書いたものが評価されるなんて思ってもみなかったから、すごく驚いて・・・
でもやっぱり嬉しくて、それにソラがお腹にいたから、受賞の賞金はすごく有難くて・・・
編集の担当さんは私のことを「女子高生作家」としてデビューさせて売り出したかったみたいだけど、妊娠のことを告げて高校をやめて渡英するからと辞退したら、凄くガッカリしていた。
それでも「次回作を」と言ってくれて、その熱意に引っ張られながらなんとかここまでやってこれた。
英二くんに見つかる訳にはいかないから、メディアは絶対NGで、おかげで「ミステリアスな女流作家」なんて変な煽りを付けられてしまったけれど・・・
どうせなら「高校中退作家」とかでいいのに・・・
まぁ、せっかく日本に帰ってきたんだから、高校と大学の卒業認定はとろうと思っているけれど・・・
本棚に手を伸ばして取り出した参考書・・・
重さ的にこれで限界かな・・・?、そう諦めてレジへと向かう。
・・・あ、英二くん!
レジ横の雑誌コーナーに積まれている英二くんが表紙の雑誌を見つけて立ち止まる。
やっぱりかっこいい・・・、条件反射で一冊手に取った。