第111章 【ホコレルヒトニ】
「なんだよー、もっと喜べよなー!」
オレの全身の喜びとは対象的に、静かに空を見上げる不二に唇を尖らせると、いや、ちゃんと喜んでいるよ、そう言って不二は少し寂しそうな笑顔を見せる。
「・・・璃音は本当に凄いなって思っていたんだ。」
「璃音・・・?」
「ああ・・・英二には言ってなかったかな・・・来年は英二とダブルスを組みたい、璃音がいれば大丈夫、そう璃音と話をしていたんだよ・・・」
そっか・・・、璃音、見ててくれたかな・・・、なんて思いながら、オレも観客席の向こうの空を眺めた。
オレ、璃音に見てもらいたくて、すげー、頑張ったんだよん・・・
テニスもできるようになったし、きっと大学もこのままいけば問題ないって・・・
眩しい空に細めていた目を見開いた。
慌てて駆け出しそうになり、試合後の整列がまだで思いとどまった。
ドクン、ドクン___
な、なんで・・・?、礼と握手が終わると、笑顔で迎える仲間たちからタオルだけひったくり観客席へと駆け上がった。
だけど、確かにいたはずなのに、その席には既に誰も座ってなくて・・・
「ちょっと!、ここにいた人は!?」
「え?・・・あー、さっき、帰ったみたいだけど・・・」
帰った・・・?、慌ててそのまま会場の出口へと向かった。
だけど、そっからどうしたらいいかわかんなくて・・・
キョロキョロと辺りを見回し、必死にその姿を探した。
「ね、ねぇ!!」
微かに見えた曲がり角を曲がる姿・・・
慌てて追いかけ、大声で呼び止める。
ビクッと震える身体、恐る恐るその人物が振り返る。
ああ、やっぱり・・・
見間違えるはず、ない。
何年、会ってなくたって、分かんないはずないんだ・・・
「・・・なんで、いんだよ・・・?」
相変わらず、オレそっくりの外ハネの癖っ毛、目元も、口元も・・・
「・・・見つかっちゃったわね・・・ゴメンね・・・?、英ちゃん・・・」
おかーしゃん___