第111章 【ホコレルヒトニ】
「・・・うん、大石、あんがとね、章高おじさんにもよろしく言っといて。」
伴野総合病院の前、大石のおじさんが務める総合病院。
その精神科の先生を紹介してもらい、カウンセリングを受ける。
ドクン___
テニスが出来なくなったのはあの女に殴られたことが直接の原因だけど、大元の幼い頃からの全てを乗り越えなければならなくて・・・
それはオレにとって、とても苦痛で逃げ出してしまいたくなることだったけど、璃音にオレのテニスを見てもらいたい、その一心で壁を乗り越える為に自分を奮い立たせる。
ドクン、ドクン___
カウンセリングを受けたからと言って、そう簡単に乗り切れる問題ではないのは分かってる。
もし乗り越えられて、テニスが出来るようになったとしたって、不二が言うように3年近いブランクを取り戻せるかも分かんない。
だけど、初めて部員として入ったテニス部の部室。
不二と乾の間にあるロッカーの、【菊丸】のネームプレート。
以前、それを見つけた璃音がここで涙を流した。
ギィィっと金属音を鳴らしてそのドアを開ける。
何も入っていないそこに、中学の頃のレギュラージャージをかける。
絶対、春には高校のレギュラージャージを手に入れてみせる・・・
オレの無謀すぎる挑戦への硬い決意の現れ。
全ては璃音の願いを叶えるため・・・
「乾、頼んでおいたオレの練習メニューは?」
「ああ、当分は体力を戻すことに専念しよう。今のお前のレベルに合わせて基礎トレーニングを組んでおいた。」
「サンキュー・・・って、ちょいまち!、この1日2杯ってなんだよ!」
「効率よく基礎体力を付けるために必要なことだ、プロテインの類と思えばいい。」
早速、ジョッキを片手に逆光する乾に、お前が飲めよ!なんて文句を言いつつ、その効果が絶大なのは分かっていて・・・
出来ることは何でもしないと、レギュラージャージなんて夢のまた夢・・・
ええい!やってやろーじゃん!!
「ぐぁぁぁ、何だこれ、何だこれ、なんだこれーーーーー!!!!!」
トレーニング前に倒れるんじゃないか、そう本気で思った。