第111章 【ホコレルヒトニ】
そう、オレがアイドルになったのは、璃音に今のオレを見てもらいたいから・・・
『ごめんなさい・・・その、つまり・・・大人になって・・・どこかで、英二くんの噂を聞いた時に、私が好きになった男の人は、こんなに素晴らしい人なんだって、胸を張れる人になっていて欲しいんです・・・勝手なお願いなんですけど・・・』
それはあの日、璃音がオレの前に現れて、そしてオレの腕の中から逃げ出したあの踏切で、璃音からされたお願い。
あの日___
愛してる、そう踏み切り越しに愛を確かめあった璃音は、案の定、電車が通過した時には、もうその姿を消していた。
「璃音!!!璃音!!!」
踏切が開いた途端、大声で呼びながら璃音を探した。
だけど、さっきまでそこにいたはずなのに、どこにもその姿は見つけられなくて・・・
急いで家にも行ってみたけれど、やっぱりそこにもいなくて・・・
「・・・なんでだよ!!!」
そう、頭を抱え込んでうずくまった。
涙が止まらなくて、大声を上げて泣き叫んだ。
最後に見た璃音は、必至に涙をこらえて笑顔を見せていたけれど、オレはもう一生笑うことなんて出来ない、そう本気で思った。
それから毎日、また空っぽの抜け殻になった。
公園の東屋で毎日空を眺めて過ごした。
誰の声も耳に届かなくて、学校にも行かずに・・・
「英二、璃音は英二にどんな気持ちで最後に会いに来たんだろうね?」
そんなある日、突然、目の前に現れた不二の言葉に、目を見開いた。
璃音がどんな気持ちで・・・?
「あんなに璃音の愛情を独り占めしておいて・・・どうしても英二にだけは最後に会いたいと思うほど、璃音に想われていたくせに・・・英二には璃音の覚悟がなにも伝わらなかったの?」
璃音の、愛情・・・
独り占め・・・
『このためにわざわざ・・・?』
『はい・・・あと、英二くんと少しお話がしたくて・・・手紙ではなく、直接・・・』
きっと、ねーちゃんの制服を返すより重要だったこと・・・
あの時、璃音が直接、オレと話したかったこと・・・