第111章 【ホコレルヒトニ】
「なーにー?、ねーちゃん、オレがすぐマンションに帰るの寂しいのー?」
「そんなわけないでしょ!、静かに暮らせて清々してるのに!」
相変わらずの憎まれ口がすごく懐かしくて微笑ましくて、ねーちゃん、可愛いーって思いっきり抱きつくと、何すんのよ!、そう相変わらずの強気の鉄拳が振り上げられたから、慌てて身構える。
だけど、なかなか拳は振りおりてこなくて、ねーちゃん?、そう不思議に思ってそーっと目を開けると、ねーちゃんは振り上げたはずの拳をもう下ろしていて、ダメよね、あんたの身体は大切な商品なんだから、そう言って首を横に降った。
「別にいいのに、オレはねーちゃんの弟の『菊丸英二』なんだからさ・・・」
「ダメ、だってあんた、璃音ちゃんのためにアイドルになったんでしょ?」
そのねーちゃんの返事に目を見開いた。
ねーちゃんから懐かしい名前が出てきたことに驚いて視線を揺らすと、リビングのテーブルの上に置かれた雑誌が目にとまった。
それは、先日、オレが受けたインタビューの記事が載っている雑誌。
さっき、マネージャーにも言われたけれど、調子に乗って色々余計なことまで喋っちゃって、暫く大騒ぎになって大変だったやつ・・・
「・・・オレ、ちょっと出かけてきていい?」
「え、今帰ってきたばっかなのに!?、どこ行くの?、大石くんや不二くんのとこ?」
「みんな仕事中だって、違くてさ、そこの公園・・・」
ああ・・・、そうねーちゃんが納得したような顔をする。
気をつけなさいよ?、ファンに見つかったら大騒ぎになるから、そう心配してくれる様子に、マネージャーがもうひとりいるみたいだな、なんて頬を緩ませる。
「ん、気をつけるよ・・・あ、この雑誌、借りてくよー?」
雑誌をヒラヒラとさせながら、さっき脱いだばかりの靴をまた履いて玄関のドアをくぐる。
快晴の空が眩しくて目を細めた。