第110章 【アイシテル】
カンカンカン、また響き渡る踏切の警報音。
同時に必死に腕の中で抵抗していた小宮山が抵抗をやめる。
「英二くん、苦しい・・・」
眉間に皺を寄せた小宮山のその言葉にハッとして、ご、ごめん、そう慌てて逃げられないように抱きしめていた腕の力を弱める。
ドン!
その瞬間、胸に走った衝撃・・・
何が起こったか理解できないまま、数歩、後ずさりする。
目に飛び込んできたのは、自分の腕の中にいたはずの小宮山の瞳からこぼれ落ちる涙・・・
「ごめんなさい・・・」
微かにそう呟いて、ゆっくりとオレに背を向ける。
そのまま、下がり始めた遮断機の中へと駆け込む小宮山・・・
我に返り、小宮山!そう慌てて小宮山の背中に手を伸ばす。
だけど、あと少し、ほんの少しだったのに、小宮山には届かなくて・・・
そのまま、小宮山はいつ電車が来るかわからない踏切の中を走っていく・・・
もうすぐそこまで電車が迫ってきているのに、運動が得意ではないその小宮山の行動は、どう考えても無謀なもので・・・
踏切の中で、そのまま電車に轢かれてしまうんじゃないかって・・・
「小宮山!!」
急いで小宮山の後を追った。
しっかりと下がりきった遮断機に手をかけて、すぐ側に迫っている電車なんて目に入らず、見えるのは小宮山の背中だけ・・・
「英二!!!」
突然、後ろから羽交い締めにされて、踏切から無理やり連れ出される。
離せよ!、不二!!、そうガッチリとオレの身体を拘束する不二の腕を振り払おうと、必死に抵抗した。
後から考えたら、なんで不二が?とか、いつから見てたんだよ?とか、色々疑問がわいてきたんだけど、その時はそんなことを不思議に思う暇なんかなくて・・・
だだ小宮山を追うことしか、考えられなくて・・・
「小宮山!!小宮山が!!なんで止めんだよ!!」
「落ち着け、英二、璃音ならちゃんと渡りきったよ。」
その声に、少し落ち着いて小宮山を見つめる。
不二の言う通り、小宮山は降りた遮断機を少し持ち上げ、くぐり抜けるところで・・・