第110章 【アイシテル】
「あの・・・一つだけ、お願い、きいて貰えますか?」
涙を拭いたオレの腕の中で、小宮山がオレの顔を真っ直ぐに見つめてそう問いかける。
小宮山が、オレにお願い??
今まで、滅多に小宮山がオレに何かお願いをすることはなくて、あった時は相当の強い意志を見せたときで、やっぱり今もその目からは、強い覚悟と意志が感じられて・・・
「・・・ん、何でもいって?」
「はい・・・あの・・・」
ゆっくりと口を開く小宮山・・・
一瞬、視線を下げたけど、首を震ってまたオレと視線を合わせる。
「英二くん・・・将来・・・私・・・が、誇れる男の人になって・・・?」
それって・・・?、自分の気持ちを言葉にするのが苦手な小宮山のお願いは、いつもの事だけどなかなか直ぐにその意図を理解できなくて、目をパチパチさせるオレに、あっ・・・って視線を揺らす。
「ごめんなさい・・・その、つまり・・・大人になって・・・どこかで、英二くんの噂を聞いた時に、私が好きになった男の人は、こんなに素晴らしい人なんだって、胸を張れる人になっていて欲しいんです・・・勝手なお願いなんですけど・・・」
言い直した小宮山の願いは、最初よりずっと具体的になっていたけれど、なんでそんなことを言うのか、やっぱりよく分からなくて・・・
だけど、それは、やっぱりもう、小宮山がオレと二度と会うつもりはない、っていうことだけは理解出来て・・・
「やだよ!なんで将来とか言うんだよ!しらねーって、将来なんか!!」
「英二くん、あの・・・」
「やだかんな!、『いつかどこかで』なんて、オレ、絶対やだかんな!」
そう、絶対、そんなの嫌だ。
小宮山が大人になった時、どこかでオレの噂を聞くなんて・・・
噂なんかじゃなくて、ずっと一緒に、ふたりで支え合いながら大人にならなきゃ・・・
やだかんな・・・?