第110章 【アイシテル】
小宮山の向こうの空に視線を向ける。
吹く風が小宮山の髪を揺らしてその香りを漂わせる。
空も、風も、香りも、景色も、あの頃と何も変わらないのに、大きく違うふたりの距離・・・
オレ、小宮山の背中を見ながら歩くの、初めてだ・・・
小さな背中・・・
オレが付き合っていた頃より、さらに細くなったのはコート越しでもよく分かる・・・
手を伸ばしたら触れられるのに、その背中を思いっきり抱きしめたいのに、すぐそこにいる小宮山はすごく遠くて・・・
「・・・小宮山、痩せた・・・?」
恐る恐る口を開く。
分かりきっていることなのに、話のきっかけを探したくて・・・
「はい、少し・・・体調を崩してしまって・・・」
その小宮山の言葉に驚いて目を見開いた。
あ、大丈夫ですよ?、そう慌てて小宮山が振り向いて両手を振る。
「本当に大したこと無かったんです、・・・でも、それで渡英も出来なくて・・・やっと先生の許可がおりて、これから向かうんです。」
少しバツが悪そうに笑う小宮山に、オレのせい?、そう申し訳なく思いながら問いかけると、違います、全然、なんて慌ててそれを否定する。
「私の自己管理不足ですよ?」
そうオレが気にしないように笑ってくれる小宮山・・・
でも、きっとオレがあんなことしなければ、小宮山が体調を崩すことはなかったはずで・・・
痩せただけじゃない・・・
顔色もいつもより蒼白いし、サラサラで艶のある髪だってあんま手入れが行き届いていない気がする・・・
「大したことない」なんて言っていたって、本当はきっと、相当キツかったに違いなくて・・・
「・・・一年の頃から、進路希望調査にイギリスの大学書いていたって・・・」
知らなかった・・・
小宮山は内部進学するって決めつけてた・・・
遠距離なんて考えらんないって・・・
小宮山はちゃんとサインを送ってくれていたのに・・・