第110章 【アイシテル】
「以前、お姉さんにお借りした制服です。私、返しそびれてて・・・」
あぁ・・・そういえば・・・
学園祭でオレが倒れたとき、嘔吐したまま小宮山にしがみついちゃって、汚れた制服の代わりにってねーちゃんが自分のを貸していた。
「そんなの、気にしなくていいのに・・・もうねーちゃん、着ないんだしさ・・・」
「そんな訳にはいきませんよ、大切なお姉さんの思い出なんですから・・・」
律儀な小宮山らしく、しっかりクリーニングに出してあるそれを受け取ると、良かった、ちゃんと返せて、そう言って小宮山は安心したように笑う。
「このためにわざわざ・・・?」
「はい・・・あと、英二くんと少しお話がしたくて・・・手紙ではなく、直接・・・」
その小宮山の言葉に、ドキッと心臓が跳ねた。
市川や不二には手紙を書いたのに、オレには何も無かったのがすげー辛かったけど、そんなふうに言ってもらえるなんて・・・
まるでオレは特別と言われているようで・・・
だけど、そんな期待はすぐに不安へと変わっていく。
だってその話がオレの望んでいることとは限らなくて・・・
それにやっぱり、オレは小宮山に今までのことを謝らないといけなくて・・・
「あ、あのさ・・・オレも小宮山に・・・」
「歩きながら話せますか?、あまり時間が無くて・・・」
謝りたくて・・・、そのオレの言葉を打ち消して、小宮山が公園の先に視線を移す。
すみません、お母さんを待たせているので・・・、そう申し訳なさそうな顔をして、それからゆっくりと歩き始める。
「あ・・・う、ん・・・」
小宮山の家の方向に向かうその後ろを、ただ黙ってついて行く。
公園から小宮山の家までの道のり・・・
数え切れないほど、ふたりで歩いた。
くだんない話をしながらでも、ただ黙って並んで歩いているだけでも、いつだってふたりでいれば幸せだった。